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殿様枕症候群

[2024.03.24]

今年になって最も話題になった医学ニュースは、今のところこれでしょう。〝殿様枕症候群〟

国立循環器病研究センター脳神経内科のグループが、脳卒中の原因の一つである特発性椎骨動脈解離は枕が高いほど発症割合も高く、またより固い枕では関連が顕著であることを立証し、殿様枕症候群(英語名:Shogun pillow syndrome)という新たな疾患概念を提唱しました。国立循環器病研究センターHPより

椎骨動脈解離は椎骨動脈の血管壁が裂ける状態のことです。血管壁が裂けたときの後頭部痛や後頚部痛で発症し、脳梗塞やくも膜下出血の原因となる病態として知られていますが、その原因に関しては、わからないことが多かったのです。この研究では、起床時発症で、先行する外傷などがない椎骨動脈解離53人を調べています。その結果、高い枕(一般的な枕の高さは8㎝程度で、この研究では12cm以上を高い枕としています)を使用している場合、12cm以上の枕では約3倍、15cm以上の枕では約10倍椎骨動脈解離を発症しやすいことがわかりました。枕が高ければ高いほど、椎骨動脈解離が発症しやすいことが示唆されたわけです。この傾向は枕が固いほど顕著で、柔らかい枕では発症しづらくなる、というのも面白いところです。殿様枕症候群は、名前とイメージが印象に残りやすく、高くて固い枕のリスクを広く認知してもらうにはよいネーミングだと思います。現代ではあまり使わないと思いますが(笑)。

勤務医として手術をしていたころは、椎骨動脈解離=解離性動脈瘤破裂(くも膜下出血)で手術になる症例を扱うことが多く、まれな病態かと思っていましたが、この数か月、椎骨動脈解離に遭遇することが多くなり、そんなにまれな病態ではないのでは?と感じていたところだったので、この機会に調べてみました。発症頻度ははっきりしていないようですが、剖検例の10%程度で椎骨動脈解離が自然治癒した痕跡がある、との報告があり、やはりまれなものではないようです。以前から睡眠時発症や起床時発症の頭痛では、椎骨動脈解離を忘れないようにチェックしていましたが、椎骨動脈解離のおそらく数パーセントが脳梗塞やくも膜下出血に移行するため、MRI/MRAの読影はより慎重にしないといけない、と意を強くしました。

頭痛で発症した椎骨動脈解離は、数%の方が脳梗塞、まれにくも膜下出血に移行しますが、それ以外のほとんどの方は無症状で経過すると思われます。治療としては、脳梗塞を予防する目的で、抗血小板療法を開始することが多いです。血管壁の修復は2か月程度で完了するようなので、当院では発症から3か月後にMRIで梗塞巣や出血がないことと、MRAで血管所見の改善を確認して抗血小板療法を終了しています。

殿様枕(画像)というのは江戸時代に使用されていた高い枕で、髪型=髷(まげ)が寝ている間崩れないようにするため、武士だけではなく庶民の間でも広く使用されたようです。

 

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