痛みが痛みをよぶ~中枢性感作~
日々の診療において、大事だと思っている考え方の一つに、慢性疼痛(頭痛だと慢性片頭痛や緊張型頭痛)における中枢性感作があります。
痛みにおける中枢性感作(central sensitization: CS)とは、「中枢神経系(脳と脊髄)において、痛覚過敏を誘発する神経信号の拡大」と定義される痛みを増幅させるメカニズムです。かんたんにいうと、痛みをくり返し感じていると、実際の痛みよりもより強く感じるようになる、という現象です。このメカニズムが、急性疼痛→慢性疼痛(3か月以上痛みが続く場合慢性疼痛といい、慢性片頭痛や緊張型頭痛、線維筋痛症などがあります)への移行に重要な役割を果たしており、疼痛治療においては理解しておかないといけない概念です。CSをおこしやすい生活習慣もわかっており、①運動習慣のない人、②頻繁に会って話をする友人がいない人、などがCSを起こしやすいようです。CSは脳・脊髄の中枢神経系における神経信号伝達の変化 ( ① 痛みの信号の増幅、② 痛みを抑える機構=下行性疼痛抑制系、の働きが弱まる ) によって起こります。そのため、慢性疼痛ではロキソニンなど通常使用される消炎鎮痛薬のみでは効果が乏しいことが多く、逆にCSの出現を助長する可能性があります。したがって慢性疼痛の治療では、通常使用される消炎鎮痛薬+それ以外の薬剤(例えば、CGRP製剤、神経障害性疼痛治療薬や抗不安薬、抗うつ薬など)や運動療法、心理療法、などが必要になってくることが多いです。
昔から「痛みが痛みをよぶ」といわれます。疼痛の治療では、なるべく早期に痛みを感じないようにし、痛みの連鎖を断ち切ることが重要だと思います。その上で、痛みの根本的な原因を解決するよう努めることによって、CSの出現=慢性化を防ぐことが大事だと思っています。