可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
今回は可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS: Reversible cerebral vasoconstriction syndrome)についてお話しします。勤務医として働いているときは、年に一人いるかいないかの稀な疾患だと思っていましたが、昨年6月に開院してからは、月に少なくとも1~2人の方が受診されています。意外と多い病態なのではないかと感じており、この機会にRCVSについてまとめてみました。
頭痛の診療ガイドライン2021によると、可逆性脳血管攣縮症候群は、交感神経の過活動による脳血管緊張不全によって、①雷鳴頭痛で発症し、②多巣性に分節性の脳血管攣縮を認め、③攣縮が発症3か月以内に改善し、約3割に何らかの脳卒中を合併する疾患である、とされています。20~50歳の女性に好発し、片頭痛の既往が多い(17~40%)ことが知られています。
RCVSの75%が頭痛を唯一の症状としています。典型的には突然発症して1分以内に頭痛の強さがピークに達する、いわゆる雷鳴頭痛であることが多いです。雷鳴頭痛はにはトリガーが存在することが多く、トリガーの特徴は交感神経の過活動を誘発させるような因子(いきみ、性行為、入浴・シャワー、咳、くしゃみ、笑い、など)です。雷鳴頭痛の発作は平均1~3時間で、発作持続と消失を繰り返すのが特徴。発症後の1~2週間で頭痛をきたすことが多く、1か月以内に頭痛がおさまることが多いです。一方、頭痛を伴わないRCVSも0~15%程度存在します。前述したように、RCVSの本体は交感神経の過活動による脳血管緊張不全によっておこる、多巣性、分節性の脳血管攣縮なので、典型的な雷鳴頭痛はなくても画像所見をしっかりとチェックすることが重要です。
画像診断はMRI/MRAでおこなわれることが多く、画像所見の特徴は、多巣性、分節性の脳血管攣縮です。発症時には末梢の細い血管から攣縮が始まり、数週間かけて太い主幹動脈に攣縮が移行していく(求心性移行)のが特徴です。発症直後で細い血管の攣縮のみの場合は、MRAでも検出されないことがあるため、頭痛を繰り返す場合は、RCVSを疑ってMRI/MRAをしつこく再検査することが重要と思っています。
診断がはっきりしたらカルシウム拮抗薬(ロメリジンやベラパミル)の内服による治療をおこないます。基本的には生命予後良好な疾患ですが、約3割に何らかの脳卒中(脳梗塞、くも膜下出血、脳内出血など)を合併し、後遺障害を残すこともあるので、なるべく早い診断と治療開始が大事だと思っています。頭痛そのもののコントロールはアセトアミノフェンやロキソプロフェン、インドメタシンなどの消炎鎮痛剤の内服をおこなっています。既往で片頭痛を患っている方が多いですが、片頭痛の治療薬であるトリプタン製剤の使用は血管攣縮を助長する危険性があるため使用していません。
以上、RCVSについてまとめてみました。RCVSは2007年に初めて提唱され、まだまだ不明な点も多い病態です。これまでに経験した原因不明の突発性頭痛や咳頭痛、若年者の脳卒中の中にもRCVSの症例が少なくとも何人かはおられたことでしょう。先入観にとらわれず、あらゆる可能性を考慮に入れて、診療に臨みたいと思います。